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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)335号 判決 1993年2月26日

原告

近藤隆行

被告

南伸二

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し、各自金二六一万七三一六円及びこれに対する平成元年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

被告らは、各自、原告に対し、金一一一八万二五八八円及びこれに対する平成元年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

第一項について仮執行宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

日時 平成元年三月一九日午後四時二〇分頃

場所 岡山市郡二五一五番地の九先金甲山登山道〇・八キロポイント

加害者 被告南

加害車両 普通乗用自動車(岡五六ひ九七一六)

被害者 原告

被害車両 原動機付自転車(安佐南区や九五六五二)

態様 加害車両と被害車両が衝突して原告が転倒し負傷

2  責任

被告南は、加害車両を運転して本件事故現場道路を下り走行中、見通しの悪い急カーブにさしかかつたのであるから、対向車のあることを予想し、対向車線に自車を逸走させるようなことのないように減速して走行する義務を負うのに、これを怠り、漫然十分に減速することなくカーブに入り、これを曲りきれず自車を対向車線にはみ出させ、折から対向車線を対向走行してきた原告運転の被害車両に自車を衝突させた過失があるから、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

被告山本は、加害車両を所有し、本件事故当時、被告南に運転させて同乗し、運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の運行供用車責任を負う。

3  権利侵害

原告は、本件事故により、右中指不全切断、右橈骨遠位端骨折、右膝前十字靱帯損傷、左膝外側側副靱帯損傷の傷害を負い、後遺障害等級一四級一〇号の後遺障害が残つた。

4  損害

(一) 治療費及び診断書料 一万六一三〇円

(二) 付添看護費 一四万四一五〇円

(1) 職業付添費 三万四一五〇円

(2) 母親付添費 一一万円

(三) 入院雑費 二八万八七〇九円

(四) 交通費 七万九四九〇円

(五) 家賃差額 一四万〇三五〇円

当時大学生であつた原告は、本件事故による傷害のため、従来居住していた借家には居住できなくなり、平成元年九月から平成二年三月までの七ヵ月間傷害があつても居住できる賃料の高い借家に転居することを余儀なくされたから、これによる損害は、新賃料三万七〇五〇円から旧賃料一万七〇〇〇円を控除した二万〇〇五〇円の七カ月分である一四万〇三五〇円である。

(六) 休業損害 一一九万円

原告は、本件事故前まで、学業の合間を見てアルバイト収入を上げていたが、右事故により一年間就労できなくなり、これによる損害は、アルバイトによる日給七〇〇〇円に就労できたはずである日数一七〇を乗じた一一九万円である。

(七) 後遺症逸失利益 七一一万〇〇七九円

原告は、本件事故により後遺障害等級一四級一〇号の後遺障害があり、これによる逸失利益は、金融機関の四年制大学卒業の男子労働者の年間平均賃金六一二万一二〇〇円に、労働能力喪失割合〇・〇五を乗じ、これに二二歳から六七歳までの就労可能年数四五年に対応する新ホフマン係数二三・二三一を乗じた七一一万〇〇七九円である。

(八) 傷害慰謝料 二一二万円

(九) 後遺症慰謝料 九〇万円

(一〇) 合計 一一九八万八九〇八円

5  損害の填補 八〇万六三二〇円

6  結論

よつて、原告は、被告らに対し、各自、前記4の損害額から前記5の填補額を控除した残金一一一八万二五八八円及びこれに対する本件事故の日である平成元年三月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2、5は認め、同3、4は争う。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  責任

請求原因2は当事者間に争いがない。

三  権利侵害

乙第三ないし第一六号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、右中指不全切断、右橈骨遠位端骨折、右膝前十字靱帯損傷、左膝外側側副靱帯損傷の傷害を負い、右事故当日である平成元年三月一九日から同年六月一〇日まで八四日間川崎医科大学附属病院に入院し、同月一一日から平成二年七月二一日まで三八二日間(実日数二六日)通院し、平成三年七月一五日症状固定との診断を受け、接着手術後の右中指に知覚鈍麻、両膝に鈍痛、左膝に動揺性の後遺障害が残り、右は自賠責調査事務所において、後遺障害等級一四級一〇号に該当する旨の事前認定を受けたが、その後も右中指の知覚鈍麻に改善はなく、膝の鈍痛の方は年月とともに徐々に軽減してきているが、いまだに残存していることが認められる。なお、症状固定の日を右診断のあつた平成三年七月一五日以外と認めるべき的確な証拠はない。

四  損害

1  治療費及び診断書料 一万六一三〇円

甲第一号証の一ないし一〇、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、被告支払分以外に、治療費及び診断書料として一万六一三〇円を支払つたこと、右は本件事故による治療及びリハビリテーシヨンに関する出費であつたことが認められる。

2  付添看護費 一四万四一五〇円

甲第二号証の一、二、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、入院当初の二五日間程度は切断した中指の癒合という特殊治療のためベツドに身体を固定されて身動きできない状態で、身の回りの世話を受ける必要があり、医師の許可を得て二〇日間原告の母親の付添いを受け、同女の都合の悪かつた五日間は職業付添婦に付添いを依頼し、これに報酬及び交通費として合計三万四一五〇円を支払つたことが認められる。

右認定事実によれば、母親の付添いについては一日当り五五〇〇円と認めるのが相当であるから、その二〇日分は一一万円となり、これに前記職業付添費三万四一五〇円を加算した一四万四一五〇円が付添看護費合計となる。

3  入院雑費 一〇万〇八〇〇円

原告の入院期間は八四日間であつたことは前記三認定のとおりであるところ、一日当りの入院雑費は一二〇〇円程度と認めるのが相当であるから、八四日間の入院雑費合計は、一二〇〇円に八四を乗じた一〇万〇八〇〇円となる。

4  交通費 二万七〇〇〇円

原告が平成元年六月一一日から平成二年七月二一日まで三八二日間(実日数二六日)通院し、平成三年七月一五日症状固定との診断を受けたことは前記三認定のとおりであるところ、一日当りの通院交通費は昨今の交通事情等に鑑み一〇〇〇円程度と認めるのが相当であるから、通院交通費としては、これに右認定のとおり明らかな通院日数二七日を乗じた二万七〇〇〇円と認めるのが相当である。

なお、原告の母親の交通費は前記認定の母親の付添費に含まれるべきものである。

5  家賃差額 一三万三〇〇〇円

甲第五、第六号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故前、アパートの一室を月額賃料一万七〇〇〇円で賃借していたが、右事故後は、傷害のため右アパートでの生活においてトイレや風呂の使用に支障を来したことから、右支障のない別のアパートに転居することを余儀なくされ、新たに賃借したアパートの月額賃料は三万六〇〇〇円であり、七カ月間同所に居住したことが認められる。

従つて、右転居にかかわる損害は、新旧月額賃料の差額一万九〇〇〇円に居住月数七を乗じた一三万三〇〇〇円となる。

6  休業損害 六三万円

乙第一七、一八号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、広島経済大学の一年生であり、春夏冬の休暇中や週末等に、運送会社や土建会社で日給七〇〇〇円程度の肉体労働のアルバイトをしていたこと、右事故後一年間は右アルバイトができなかつたことが認められる。

原告は、一年間のアルバイト就労できた筈の日数は一七〇日である旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はなく、学生という立場からみても、直ちにそのまま採用し難いものの、春夏冬の長期休暇中は比較的容易にアルバイト就労が可能と認められるので、それに相応する期間である九〇日分に限つて事故による就労不能と認めるのが相当であるところ、その損害合計は日給七〇〇〇円に右日数九〇を乗じた六三万円となる。

7  後遺症逸失利益 五七万二五五六円

原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、平成四年三月広島経済大学を卒業し、同年四月玉野信用金庫に就職し、得意先担当係としていわゆる外回りの仕事に従事し、月額一六万四〇〇〇円の給与に年間四カ月分の賞与(年収二六二万四〇〇〇円)を得ていること、本件事故による右中指の鈍麻やしびれ、両膝の鈍痛等の後遺症により、いささか差しつかえを感じながらもこれを克服して業務に専念し、目下他の職員との間に給与格差はないことが認められる。

右認定事実によれば、原告は、後遺障害によるハンデイを努力で補いながら他と同等の給与を維持しているものと認められ、その努力をもつて損害相当額と評価すべきところ、その程度は、右障害の部位程度に鑑み、収入の五パーセントを下らないものと認めるのが相当であり、また、その努力を要する期間としては、前記三認定のように膝の障害には改善のきざしがみられることなどからすると、就職後五年間と認めるのが相当であるから、後遺症逸失利益は、年収二六二万四〇〇〇円に右努力の割合として〇・〇五を乗じ、これに五年に対応する新ホフマン係数四・三六四を乗じた算式で算出した五七万二五五六円をもつて相当というべきである。

8  傷害慰謝料 一〇〇万円

前記三認定の原告の傷害の部位程度、入院通院期間等を総合考慮すると、傷害慰謝料としては一〇〇万円と認めるのが相当である。

9  後遺症慰謝料 八〇万円

前記三認定の後遺症の内容程度、前記四7認定の職務上のハンデイの内容程度等を総合考慮すると、後遺症慰謝料としては八〇万円と認めるのが相当である。

10  合計 三四二万三六三六円

五  損害の填補 八〇万六三二〇円

請求原因5は当事者間に争いがない。

六  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自、損害合計額から填補額を控除した二六一万七三一六円及びこれに対する本件事故の日である平成元年三月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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